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塵芥居士(安達智) ちりあくたこじ/あだちさと
漫画家
1984年愛媛県伊予三島市(現四国中央市)中之庄町生まれ
東京都在住
三島幼稚園→中之庄小→三島西中→済美高(美術科/松山市)→大阪成蹊大学芸術学部
大学卒業後デザイナーとして就職。
その後独立し、10年間フリーランスでWEBデザインを手掛ける。
2019年 スマートフォン用マンガ雑誌アプリ「マンガボックス」で『あおのたつき』連載開始(安達智(あだちさと)名義)。同年Twitter(現「X」)で『丁寧な暮らしをする餓鬼』を投稿開始。
2022年 『丁寧な暮らしをする餓鬼』が第51回日本漫画家協会賞カーツーン部門大賞受賞。
2023年 笑顔のえひめ文化・スポーツ賞(文化)受賞
『あおのたつき』(1〜11巻 マンガボックス/コアミックス)
『丁寧な暮らしをする餓鬼』(全3巻 KADOKAWA)
すでに連載が始まっていた『あおのたつき』のキャラクターを考えている中で、なんとなく餓鬼(ガッキー)を描きました。当時、SNS上で「丁寧な暮らし」を発信する人が多く、そこに見える承認欲求に注目して誕生したのが『丁寧な暮らしをする餓鬼』です。ちょうどお彼岸だったので、ネタ的にTwitterに投稿したことが始まりです。
実は最初に反応してくれたのは、お坊さんでした。私のツイートにお経が添えられてリツイートされていたので、最初は「怒られてる!?」と焦りましたが、「お施餓鬼」という餓鬼がご飯を食べられるようにするお経だと知って安心しました。そこから檀家さんの間でリツイートされていき、投稿から1ヶ月後にはフォロワーが4万人を超えるまでになりました。
基本的に作中でガッキーの表情は変わりません。顔の向きも同じです。描くのが面倒というのもあるのですが(笑)、ツイッターのアイコンってツイートの内容によって変わったりしませんよね。それと同じです。「周りに認められたい」という承認欲求の餓鬼として描かれたガッキーは、ツイッター、そして「私」から生まれるべくして生まれた存在だと思います。
子どもの頃から絵を描くことが好きでした。漫画家になりたくて、小学生の頃には自分で作った漫画を持って即売会に参加していました。在学中のデビューが叶わず、デザイナーとして就職したのですが、そこでデザインの楽しさを知りました。自分の仕事が評価されるようになったとき「漫画でなくても良かったんだ」と思いました。
子どもの頃、勉強も得意ではなく、友達も多い方ではなかった私にとって漫画は、周りに認めてもらうための手段だったんだと思います。
漫画家としてデビューしましたが、今でも自分の肩書きは「デザイナー」とか「アートディレクター」の方がしっくりきます。
デザイナーとして食べていけるようになりましたが、どこかで「クライアントの依頼で制作するのではなく、自分の好きなものを好きに表現したい」という気持ちがありました。再び漫画を描くようになって、同人誌の即売会やインターネット、SNSで発信していたところ編集者の目に留まり、『あおのたつき』でデビューすることができました。
今は漫画雑誌だけでなく、私が連載しているような漫画アプリなど、さまざまな媒体に漫画の需要があります。そのため編集者は、常に漫画家を探しています。何かをやり続けていれば、自分中で方向性が定まり、きっとどこかで認めてもらえると思います。
現在連載している『あおのたつき』は、私を含む7人のチームによる分業で制作しています。ストーリーとキャラクターを私が、背景や小物、時代考証のほか、最終的な仕上げもそれぞれアシスタントさんが担当しています。原稿料は全てアシスタントさんのお給料に充てているので、単行本の印税が入ってくるまでは自転車操業です(笑)。
でも、良い仕事をしてもらえれば、良い作品を早く読者に届けることができるので、結果的に自分に返ってきます。
今はSNSなどで、作品に対する読者の反応を知ることができます。その反応が「これで良いんだ」という自信になりますので、原稿料の全てを投資しても十分回収できる見込みが立つのです。
私が漫画家としてデビューするとき、夫は1年間仕事を休んで家のことをしてくれました。現在では、時短勤務ができる仕事に転職して私と家族を支えてくれています。そんな夫とは、毎日朝食時にミーティングをして報連相をしています。現在の仕事の状況を説明し、集中したい時などはカフェにこもって仕事をさせてもらっています。最初は雰囲気でやっていたのですが、お互いにイライラして喧嘩をすることもあり、今の形になりました。
最近下の子が、私が本屋さんに並ぶような本を作っていると気付いたらしく「お母さん尊敬する!」と言ってくれました。一人で作っている訳ではないのですが、とてもうれしかったです。
漫画を描く上で大事なことは、「伝えたい」という気持ちと「楽しませたい」という気持ちです。漫画はエンタメです。人に楽しんでもらうことが好きでなければ、ゴールにはたどり着けません。
漫画を通して自分が好きなものをプレゼンしたいと考えている人の作品が、多くの方に届くのだと思います。好きなことを見つけてください。私にとってそれは「デザイン」でした。
年に1、2回は帰省しています。祖父母が元気だった頃は、よくご飯を作りに行っていました。
料理が好きで、帰省すると必ずスーパーの鮮魚コーナーに行きます。東京のスーパーでは見たことがない魚介類を見つけるとうれしくなって、それが何なのか知らないまま買って帰ります。ミミイカをニンニクと炒めたらとても美味しかったです。墨袋を取るのを忘れて真っ黒になりましたが(笑)。
中学時代は眩しくて暑くて嫌だった燧灘に沈む夕陽が、今はとても好きです。地元を離れて気付いた魅力の一つです。
漫画としての『丁寧な暮らしをする餓鬼』は完結しましたが、Twitterで繋がった地方の伝統工芸とのコラボが進んでいます。餓鬼を通じて地方の素晴らしい技術や製品を知ってもらい、地域にお金が落ちるようにできればと考えています。私が好きなデザインで、地方創生ができればうれしいです。
篠原市長を表敬訪問した塵芥さん(令和5年8月3日)