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父も祖父も、三島川之江港のクレーンオペレーターでした。そんなクレーン一家に育った私が、三島川之江港にガントリークレーンが設置される18年も前に、ガントリークレーンの免許を取得したこと、そして、最初の操縦者(ガンマン)に選ばれたことは、祖父からつながる港のDNAのせいかもしれません(笑)。
三島川之江港にガントリークレーンが設置されると決まったとき、私は初の操縦者に選ばれました。設置の半年前から、横浜市にある研修施設でシミュレーター訓練や危険予知の研修、神戸市にある訓練施設で模擬船倉にコンテナを積む訓練を行い、ガントリークレーン運用に向けて備えてきました。それでも、三島川之江港で初めてガントリークレーンを操作したときは、手に汗をかきましたね。かなり(苦笑)。
当時私が1時間に積み卸しできるコンテの数は20個ぐらいでした。今では、33個、1個あたり2分で積み卸ししています。でも、荷役をする上で大事なのは、スピードよりも安全です。作業員全員が安全に作業できるよう慎重に操縦する、その意識は今も変わりません。
ガントリークレーンは、「港のユーフォ―キャッチャー」とも呼ばれますが、実は全く別のものです。UFOキャッチャーは機械の外側で人が操作しますがガントリークレーンは、UFOキャッターでいう「アーム」の上に運転席があり、アームと一緒に運転席も動きます。
そして海に浮かぶ船は、常に風や波の影響で揺れていますし、コンテナの積み卸しによる重量バランスの変化でも船は傾きます。そういった船の動きに合わせてクレーンを操作するために、ガントリークレーンの運転席にはたくさんのボタンがあり、床はガラス張りになっています。ガンマンたちは、ガラス張りの床越しに船上・地上の様子を見ながら、細かな操作を行っているのです。
ガンマンには技術だけでなく、大きく2つの能力が必要だと思っています。
1つは集中力です。ガントリークレーンは、地上約32mの高さにある運転席からガラス張りの床越しに、スプレッダーと呼ばれる吊り具を操作します。コンテナの四隅にある小さな穴にスプレッダーのピンを差し込んで吊り上げるのですが、前述のように船は常に傾いていますので、操作には高い集中力が求められます。
もう1つは、危険予知能力です。コンテナの周りには、コンテナを固縛する作業員やガンマンに合図を出す合図マンなど、常時6人ほどがいます。彼らの位置や動きを唯一上空から見ることができるガンマンには、現場に潜む危険性をいち早く察知し、事故を未然に防ぐ能力が必要です。
海外では、入港した船がガントリークレーンと接触する事故が稀にあり、ガントリークレーン3基が将棋倒しになったこともあります。このような事故は人の命に関わりますし、復旧まで荷役ができずに物流が止まることで経済に大きなダメージが生じてしまいます。こういった事故を未然に防ぐために、日ごろからのクレーン点検や関係者とのコミュニケーションを通じて、入港してくる船の特徴やコンテナの積んでいる状況などの情報を事前に確認することが欠かせません。
また、やまじ風が吹く四国中央市では、風対策が非常に重要です。大きなガントリークレーンは風の影響を受け易く、風で倒れたり、レール上を移動したりする恐れがあります。風の強い日にはガントリークレーン自体を地面にしっかりと固定しています。
また、普段から「音」に気を付けて作業をしています。音は、クレーンの調子を確認するための非常に重要な要素です。衝撃音や油切れの音などを聞き逃さないことが大切です。ワイヤーに傷などあると大きな事故につながる可能性もあるので、日頃の点検は勿論ですが、操作に集中し、五感を研ぎ澄ましなら作業をしています。
ガントリークレーンで吊り上げることができるのは、定型の大きさのコンテナだけではありません。オーバーハイと呼ばれるアタッチメントに交換するだけで、高さのある貨物も積み卸しすることができます。製紙会社で使われるようなコンテナに入りきらない大型の機械なども簡単に取り扱うことができるのです。このようにガントリークレーンは、工業が集積する四国中央市において、物流や産業の可能性を広げる役割も担っているのです。
上空の運転席の視界からは普段見ることのできない美しい景色が見られます。街の夜景や沖合を航行する船舶の明かりや漁火、空気の澄んでいる朝には対岸の広島県やしまなみ海道の橋脚まで見えます。これらはガンマンだけの特権です。でも、その特権を得るためには、運転室の窓掃除が必須です。高所での作業が苦手な方は怖いと思われるかもしれませんね(笑)。
四国一のコンテナ取扱量を誇るこの港は、重要な社会インフラであり、四国の経済活動にも欠かせない存在です。ここで荷揚げされるコンテナは、世界各地から運ばれてきており、またこの港から世界各地へと運ばれていきます。自分が積んだコンテナが世界を巡っていると思うとワクワクしますし、子どもを海外旅行に送り出す親のような気持ちにもなります。
港ではさまざまな職種の人たちが働いています。より多くの方に「世界の玄関口で働く」ことの奥深さを知っていただきたいと、市開催の「みなとウォーキング」というイベントに協力しています。RORO船や保税倉庫、ガントリークレーンを間近で見学できるようなイベントを通して、多くの方に港の仕事を体感していただき、大いに興味を持ってもらいたいです。